デザインとは文字から始まる! 使われてる書体を解明すればデザインはいくらでも真似られる! という仮説を検証すべく、有名なアルバムジャケットのタイポグラフィ/デザインを解剖してみた。ということで早速、試していきましょう。
世界一有名なバンドと世界一有名な書体
まずは初級から。“ホワイト・アルバム”の通称で知られるザ・ビートルズの1968年発表のアルバム。9月13日に亡くなってしまった“ポップ・アートの父”ことリチャード・ハミルトンによるデザイン。前年発表のアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の賑やかなデザイン(そちらはポップ・アーティストのピーター・ブレイクによるもの)とは真逆の、真っ白なジャケにバンドの名前が書かれたシンプルなもの。ふり幅がすごい。

HelveticaのルーツはGrotesqueと呼ばれる種類の書体で、中でもドイツのベルトールド社のAkzidenz Groteskが人気だったため、ハース社もAkzidenz Groteskと同じような書体を作ろうとしたのがはじまり。それを書体デザイナーのマックス・ミーディンガーとエデュアード・ホフマンが頑張ってより良いものを作ってしまったのだそう。今ではHelveticaは「書体におけるビートルズみたいなもの」とまで言われることもある定番書体になっており、「Helveticaを使うか否か?」がデザイナーのアイデンティティの一つになるほど。
Helveticaを使ったジャケットといえばあれでしょう
ちなみにスティーヴィー・ワンダー『Music of My Mind』(1972年)ではHelvetica Bold、スライ&ザ・ファミリー・ストーン『FRESH』(1973年)ではHelvetica Mediumが使われています。
ザ・ビーチ・ボーイズとフランク・ザッパの共通点といえば
続いてド名盤。1966年の5月と6月、ほぼ同時期に出たこの2作品が、翌年のザ・ビートルズ『サージェント・ペパーズ~』に影響を与えたことは有名ですが、なぜか両方ともでメインで使われている書体がありますね。
これはBarnhart Brothers & Spindler社から1922年に発売されたCooper Black。オズワルド・ブルース・クーパーがデザイン。それまでほとんど使われていなかったCooper Blackがなぜ1966年に突如リバイバルしたのかは今のところ謎ですが、これらのアルバムをきっかけに再発見され幅広く使われるようになったといわれています。

Cooper Blackを使ったジャケットといえばこれでしょう
カーティス・メイフィールド『CURTIS』(1970年)、ザ・ドアーズ『L.A. Woman』(1971年)、マイルス・デイヴィス『On The Corner』(1972年)をはじめ、ジャンル問わず使われています。
ブルーノートを印象づけるあの書体この書体
お次はジャズ。キャノンボール・アダレイの名義ですが、実質はマイルス・デイヴィスの名演で有名なアルバム。本作をリリースしたジャズの名門レーベル“ブルー・ノート”のカバー・デザインは、デザイナーのリード・マイルスが1956年から1967年までほとんど一人で手がけており、洗練されたタイポグラフィとモノクロームの写真にうっとり。
なぜバラエティ豊かなのに全体として一貫した印象を受けるのかといえば、使う書体や写真の処理が限定されているから、と言えます。リード・マイルスがブルー・ノートのために使う書体は本当に少ない。とくに頻繁に使われるのは『SOMETHIN' ELSE』で全面的に使われているFranklin Gothic Extra Condensedをはじめ、Clarendon、Latin Wide、Akzidenz Grotesk、Bailey Medium、Century Schoolbook、Caslon 540、Thorogood Italicくらいでしょうか。

いや、流石にもう少しありますが、でも目立って使われるのはそのあたり。これで400枚以上をワンパターンにならないようデザインしているのだから、リードにどれだけセンスがあるか分かるというもの。
グランジで一番見た気がするあのバンドの書体といえば
時代は飛んで、グランジの象徴として扱われるニルヴァーナの1991年作。ちょうど今年、ジャケットに写っている赤ちゃん(名前:スペンサー・エルデン)が20歳を迎えたと話題になりました。他のジャケットでも使われている「NIRVANA」のオフィシャル・ロゴはBodoni Poster Compressed。20世紀初頭、モーリス・フラー・ベントンがアメリカの活字会社のためにデザインした書体です(Bodoniという有名書体を真似て作られたようです)。
で、問題は「NEVERMIND」というタイトル。ウネウネと変形していて見分けるのが難しいですが、「E」の3画目があまり短くないこと、「R」の最後が膨らみつつ伸びていることから、HelveticaでもFranklin GothicでもUniversでもなさげ。ということでArial Blackを変形させたものと推測できますが、どうか?
Arialは1982年にモノタイプ社からの依頼で、ロビン・ニコラスと、パトリシア・ソーンダースらがデザインした書体。Helveticaの代替としてWindows OSにもデフォルトでインストールされており、一部では「Helveticaのパクリフォント」扱いされ、あまり良い印象は持たれてないようです。
パンクのイメージを決定づけたこの混ぜワザ
だんだん難しくなってきました。セックス・ピストルズ『勝手にしやがれ』。パンク・ロックの代表作として名盤カタログで目にしない日はありません。この視覚的にパンクを表現しきった記念碑的なデザインを担当したのは、ピストルズ関連の作品を数多く手がけたジェイミー・リード。デザイン史的に見れば、20世紀初頭の破壊的な前衛芸術運動“ダダイスム”に見られる混濁した文字の使い方を引用することで、既存の権力に歯向かったパンクの破壊性とリンクさせたもの、といえるでしょう。
さてさて、よくパロディにされるわりに再現が難しいジャケットです。というのも、やさぐれ感を出すためか、ところどころ縁取りが削れていたり加工されているため、これと判断する決め手がない。まず一番上の「NEVER MIND」の部分。これはおそらくGrotesque No.9。最初に書いたHelveticaのルーツにあたるGrotesqueは実はいっぱい種類があって、No.9はその中の一つ。デザイナーははっきりしませんが20世紀初頭に登場した書体です。
次に「THE BOLLOCKS」の部分はITC Century Bold Condensedで当たっているはず。Centuryは欧米ではもうほとんど使われていない古びた印象を与える書体で、代替としてTimes New Romanなどがあります。中央の小さな「HERE'S THE」はImpactが似ていますがどうだろう。
一番やっかいそうな「Sex Pistols」の部分をよく見ると、最初の「S」と「T」「L」が斜体がかった同じ書体らしき雰囲気。正解はTempo Heavy Condensed Italicでした。次に「e」と最後の「s」が太さ・大きさに共通点を感じる……。でもAlternate Gothic No.3かなと思いつつ決め手に欠けます。次の「x」はUnivers 57 Condensed、大きい「P」と「O」はHelvetica Inserat、中央の「s」はAlternate Gothic No.1がほぼ一致。「i」はいまいち判別できませんが、上の点が丸いのは例えばFutura BoldやStone Sans、Corinthianなど色々あります。
これで一応、全部の文字が解明できたので再現してみましょう。
成功! なのかこれは……。まあ最初だしいいでしょう。というわけでデザインを見るときは書体にも注目してみよう、という実験でした。
オマケ:ちなみにフォントだけ変えてみると?
ところで今回は書体がアルバムのイメージ作りに重要なのである、という仮説のもと、書体だけそのまま他の要素を変えてきましたが、逆に書体だけ変えて他をそのままにするとどうなるか?
SOMETHIN'ELSE

では先ほどの『SOMETHIN'ELSE』を書体だけ変えてみましょう。あのモダンで渋そうなイメージも、丸くてかわいい書体Frankfurter Plainに変えてみると、ムードは一転、子供向けパーティーアルバムに(つい顔文字を足してしまった)。近所のBOOK OFFに安く並んでそう。
US THREE

Five Thirtyも『BED』でパロった、中身よりジャケが有名かもしれないHorace Parlan『US THREE』を、全体的に細くリフレッシュ。意外と悪くはないですが、熱いジャズメンが互いに“間”を競いあう、静かそうなアルバムになってしまったような……。
























