
なぜ「CD」が売れなくなったか?
「CD」が売れない時代がやってきました。まぁ、当然の展開だと思うのです。デバイス好きな筆者としては、カッコよいラジカセやウォークマン、コンポなど、持っているだけで自慢になるような「CD再生プレイヤー」が、今やまったく家電売り場からなくなってしまったことがひとつの理由だと思っています。
CDはあくまで音楽のデータであり、ソフトです。再生するにはハードが必要です。ハードが普及しなければCDは無用の長物となりかねません。ちなみに、近年CD再生プレイヤーとして頼みの綱だったのがノートPCの「CD/DVDドライブ」でした。しかし、昨年大ブレイクしたMacBook Airには、ついに「CD/DVDドライブ」が搭載されませんでした。AppleはiTunes Storeという音楽配信プラットホームを通じて、インターネット上で、音楽や映画をデータ購入できる仕組みを作りあげたので、もはやCDやDVDは必要ないメディアだと判断したのかもしれません。
ここまで言い切るとCDが可哀想という声が聴こえてくるかもしれません。しかし、CDを買ってすぐに聴くには、iTunesにデータを取り込み、さらに「iPod/iPhone」にデータをダウンロードさせなければ多くのリスナーは聴けません。これって意外とめんどうではありませんか?
パッケージから「クラウド」サービスへ
Appleを含め、Google、Amazonなど最新のコンテンツビジネス界隈は、インターネット上にデータを保存する「クラウドコンピューティング」の時代に向かっています。クラウドのメリットは、スマホでもPCでもTVでもゲーム機でも、自分の「ID*」でインターネット上にアクセスすれば、どのデバイスでも、購入したコンテンツを楽しむことができる手軽さです。その結果、CD-Rなど記録メディアにデータをダビングしたり、持ち運んだり、自宅の棚で管理するような“手間”から開放されることになりました。
(ID*:コンテンツにアクセスできるアカウントのこと)
かつて記録メディアとして活躍したカセットテープ、MD、フロッピーディスク、MOがお役御免となったように、時代遅れの記録メディアであるCD/DVDに未来はないのかもしれません。とはいえ、アナログ・レコードのような、コレクターズアイテムとしてのパッケージ価値は可能性が残されていると思います。
アナログレコード+「MP3」ダウンロードコード
いま、欧米では「7インチレコード」がインディロック界隈で密かに流行っています。ユニークなアイディアとして「MP3ダウンロード・コード」が特典となったことから、アナログプレイヤーがなくても音楽をiPhoneなどスマホやPCでMP3として楽しむことも可能となりました。いわゆる、「7インチレコード」が、大きなジャケットをアート感覚で楽しむ、所有欲を刺激してくれるアイテムとなったのです。例えるなら、ハイブランドが提供する、1万円ぐらいする「高級アロマキャンドル」に近い価値観かなと思っています。ロウソク自体は「レコード」同様に時代遅れなアイテムですが、付加価値をライフスタイルにいかに溶け込ませ、購入してくれた消費者に至福な気分を提供できるかが、次世代パッケージアイテムの存在意義なのかもしれません。
そもそも音楽業界が感じているCD不況の要因は「違法配信問題」であり、リスナーが感じている要因は「最近の音楽がつまらなくなった/誰もが知ってるヒット曲がない」など様々な意見があります。あまり知られてない事実としては、日本のCDの売り上げは2008年にアメリカを抜いて、なんと世界一となりました。とはいえ、全盛期の半分以下である3千億円にまで市場は縮小していることは見逃せない事実です。
しかし、近年はAKB48のミリオンヒット続発の大ブレイクもあってか、CDパッケージやCDショップが壊滅的な状況である欧米に比べて、日本のCDビジネスには善くも悪くも粘り強さがあります。この粘り強さが、いわゆる「イノベーションのジレンマ*」を招くことになり、CDビジネスを守ることに固執するあまり、異業種であるIT企業に、配信に関するニュービジネスのチャンスを奪われつつあります。
(イノベーションのジレンマ*:優れた特色を持つ商品を売る巨大企業が、その特色を改良する事のみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かず、その商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業の前に力を失う理由)
違法よりも便利な公式サービスの実現
欧米では、ファイル共有の仕組みで違法ダウンロードを助長した「ナップスター」のブレイクや、アジア諸国ではCDの海賊盤問題もあり、日本よりも先にCD市場の大打撃を受けた結果、CDやDVDなどパッケージ商品を主流商品として固執することをあきらめました。いわゆる、違法配信よりも便利な公式サービスを普及させるという発想に転換されたのでした。そもそも違法ダウンロードをしているユーザーだって音楽が好きな顧客予備軍なわけです。好きな音源が公式で用意されていないから違法に入手しようとするユーザーが多かったのかもしれません。公式で便利なサービスがあれば、アーティストに対してクリエイティヴの対価を還元したいという気持ちはあると思うのです。
欧米では、パッケージとしてのシングル作品は少なくなった結果、権威であったチャートメディアも、売り上げ枚数のみではなくオンエア回数を考慮するなど、どれだけ売れたかではなく、どれだけ聴かれているかに評価の指標がシフトしていきました。日本でもニコニコ動画から「初音ミク」をプロデュースして人気となったボカロPなど新しいスターが生まれているのは、再生回数というユーザー参加型という評価軸の変化が要因だといわれています。いわゆる、政治や交渉力がパワーゲームとなる芸能界的ビジネスとは真逆である“余白のある”仕組みがユーザーの気持ちをとらえたのでしょう。そう考えると芸能界の例ではありますが、ユーザー参加型ゲーム性を取り入れたAKB48のブレイクには時代の必然性を感じます。大事なのは、透明性あるガチな評価システムづくりなのかもしれません。そんなゲーム性のあるシステム作りに、再生回数などをカウントしやすい音楽配信は親和性が高いはずだったのです。
オンライン・ジュークボックス「Spotify」の誕生
スウェーデンで誕生したのがオンライン・ジュークボックス「Spotify」が、イギリスやアメリカに進出して盛り上がりをみせています。月額10ドルを支払えば1600万曲が聴き放題となり、スマホでいつでも聴き放題となるサービスです。「所有から、アクセス権を買う時代へ」という、音楽の新しい楽しみ方の提案として注目を集めています。ソーシャルな仕組みとしてFacebookと提携を発表したことも気になるポイントです。このように欧米のレコード会社は、紆余曲折はあったものの積極的に新興IT企業と提携して、コンテンツを提供することで収入源の多角化を試みることになりました。たしかに、ライセンス可能なビジネスモデルこそが、コンテンツサービスのメリットなのです。
日本の音楽業界でいえば、Sony MusicはいまだにiTunes Storeに音源を配信することなく、収入源となるはずの多くのカタログコンテンツを眠らせています。世界中の音楽配信のデファクトスタンダードとなったiTunes Storeに楽曲カタログがないことは、世の中に存在しない公式音楽であるということにもつながりかねません。結果、音楽文化の次世代の継承にもつながらず、ましてYouTubeにアップされた違法動画は、アーティストに著作権料が還元されないまま消費され続けるという悲しい現状が見受けられます。個人的にはZELDA、PSY・S、FENCE OF DEFENSEなど、今や伝説ともいえる優れた作品が廃盤で購入出来ない状況が続いているのは、もったいないことだと思うのです。
「ガラ携」から、高速回線「LTE」対応スマホへの進化
「着メロ」や「着うた」など、日本の音楽配信を支えてきたデバイスである「ガラ携(=フィーチャーフォン)」は、2015年には終了するといわれています。次世代のスマホである高速回線LTE対応機種(※受信時最大75Mbps、送信時最大25Mbps)が急激に普及することで、スマホでのダウンロードやストリーミング環境が、自宅の光回線レベルとなり革命的に進化することでしょう。その結果、音楽、ゲーム、テレビ、映画、ショッピング、さらには仕事が同一線上でライバルとなります。ダウンロードするさいにデータ容量の小さいことから、手軽に楽しまれていた音楽コンテンツ「着うた」の優位性は弱くなることでしょう。思えば「着うた」というネーミングの意味合いからも、時代遅れ感から逃れられることは出来ません。
もはや、音楽業界のコンテンツホルダーは、コンテンツの出し惜しみを考える場合ではなく、いかにユーザーの日常生活において、音楽コンテンツをインプットする機会を多く与えること、感動をTwitterなどソーシャルメディア上でアウトプットさせて、ユーザーに音楽を楽しんで共有していただく仕組みを考えることが大切だと思います。そこにはAKB48的な、リスナー参加型のゲーミフィケーションを取り入れる必要があるかもしれません。
国産「聴き放題サービス」の可能性は?
そんな意味合いから、海外でパッケージアイテムがなくなりつつある状況で、その変わりとして盛りあがりつつあるオンライン・ジュークボックス「Spotify」の攻勢には大変興味があります。日本ではau「LISMO unlimited」のように洋楽に限定された聴き放題サービスはあるのですが、1600万曲にアクセスが可能というSpotifyを使うことは残念ながらできません。なぜ実現出来ないのか? それは日本の大手コンテンツホルダーがSpotifyに許諾を出さないからだといわれています。
そこで、たとえば日本における音楽配信アイテムの一番の売り場であり、レコード会社にとっても近しい存在である「レコチョク」がSpotify的な便利な「聴き放題サービス」を実現することができれば、眠り続けている音楽コンテンツを復活させることとなり、音楽と触れ合える機会が広がり、音楽がソーシャルネットワーク上でのコミュニケーション・ツールとなり、音楽カルチャーの復興が待っているのではと考えます。次世代の若者への音楽文化の継承にもつながることでしょう。もしかしたら、たくさんの音楽と出会えるきっかけが増えた結果、欧米での「7インチレコード」の復興のように、CDやレコードなどコアファン向けなパッケージ商品の価値も、再び高まっていくのかもしれません(妄想)。
音楽パッケージの未来。みなさんはいかが思われますか? ご意見ご感想お待ちしています。
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